2009.03.27 Friday
おじいちゃんが遺してくれた贈りもの
昨日、アルマカレッジで開かれたジャズフェスティバルに行くのを躊躇し、息子の大切な一瞬を見逃した。昨日と同じ曲を演奏するということなので、今夜は絶対に見に行くぞとはりきっていた。そんな今日の午後、頼んであったものが届いた。
「おじいさんが死んだらな、おじいさんだと思って一生大切にできる楽器を子どもたちに買ってやってくれ」 その約束を守るために頼んであった、トランペットが届いた。 私の父は晩年、気が弱くなっていて、口を開けば、自分が死んだ後に、どうしてほしいかということを話した。死んだ後の話を聞くなんて、けっして気分よくはなく、電話するのが億劫になることもあったけど、ふんふんと話半分に聞いてやっていたが、その日は先月2月14日にほんとに来てしまった。 昨年夏に、トランペットとエレキを抱えて里帰りし、おじいちゃんのベッド横で一日中、ウルサイ音を出しまくっていた末息子だが、そんな中、「じぃちゃんが死んだら、もっといいトランペット買ってやるからな。おばあちゃんにちゃんと言っておくから」なんてへんてこな会話をしていたのを私も聞いていた。父にしてみれば、うちの家族がみんなで音楽を楽しみながら暮らしていることが心からうれしかったのだろう。 父の希望をかなえてやりたいと、母からも連絡が入り、とりあえず、「一生大切にできる楽器」が決まっている末息子のトランペットを注文した。実をいうと、昨年まで息子が使っていたトランペットは、中国製の超B級もの。長女が父にねだって買ってもらったものだったが、長女は飽きてしまったのか、興味をしめさなくなった。末息子が中学にあがったとき、「すでにあるトランペットがもったいない」という理由で選択科目として吹奏楽を選んだ。 そんな動機ではじめたトランペットだけど、末息子はジャズバンドに参加するようになり、トランペットがそこそこ好きになった。2005年に一時帰国したときには、息子は「ポケットトランペットもほしい」とねだり、これまた父に買ってもらった。もちろん、金管楽器は高価なので、子どもが遊ぶのには使える程度のシロモノだ。 しかし、昨年から大きな演奏会にも出るようになり、チューンもままならない、B級トランペットでソロを演奏するにはかなり無理がでてきていた。「弘法筆を選ばず」と言いなだめながらやり過ごし、昨年夏にガレージセールでYamahaのスチューデントモデルを安価でみつけ、練習に困らなくなりほっとしていたところだった。 息子が、これから一生おじいちゃんの思い出とともに、大切にするメモリアルギフトは、Yamaha のカスタムZ(ヤマハボビー・シューモデル)だ。 商品は月曜に到着予定と聞いていたが今夜のコンサートにまにあった。息子は大喜びで「おじいちゃん」を手にして出て行った。 さて昨日の、最優秀ソリストを受賞したときと同じ演目が始まった。息子は、マイルスデイビスメドレーの中の「All Blues」では、ジャズギターソロを演奏。そして、私の大好きな曲、「I Remember Clifford」というバラードのソロと続いた。ピカピカの「おじいちゃんトランペット」の音色が会場に美しく響いた。 そして、最後の曲は、パットメセニーの「Minuano」で、イントロ部分はシンバルを担当。オリジナルはジャズギターの曲だけど、この中で息子は派手なトランペットソロを披露。このピース、ハイスクールレベルが演奏するには、かなりレベルの高いピースだそうだ。演奏が終わると、オーディエンスは立ち上がり拍手を惜しみなく送った。 息子が演奏している間も、鳴り止まない拍手の中でも、娘がおじいちゃんにおねだりして、トランペットを買ってもらわなければ、この楽しみはなかったかもしれないと思った。そう思うとこの瞬間があるのも、やはり父のおかげと思えてならなかった。 長男は、おじいちゃんの思い出ギフトとして、カスタムギターを注文済み。次男と長女は、まだ決めかねているようだ。 |